中国のウイグル族弾圧、国外居住者も対象に
【北京】新疆ウイグル自治区でイスラム教徒の少数民族ウイグル族の身柄拘束を急拡大している中国政府が国外にも目を向け、ウイグル族グループが反政府活動に参加していないかを調べている。
政府は海外に住むウイグル族に対し、1年以上前から、現地での活動に関する報告を提出するよう要求。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が取材したところ、イスラム教徒が多くを占めるウイグル族同士で監視し合い、情報を共有するようにも求めていることが確認できた。中にはパスポートの更新が却下され、中国へ強制的に帰国させるために片道分だけの渡航許可証を提供された人もいる。
多くの場合、政府は自治区内に残っている家族の身柄を拘束し、収容センターに送ると脅迫しているという。米国務省の推計によれば、収容センターには数十万人が拘束されている。
ノルウェーでコンピューター工学を学ぶウイグル族のナムトゥラ・ナジミディンさん(35)は昨年5月、「警察が話を聞きに行く」と父親から連絡を受けた。程なくすると警察官だと話す男性から連絡があり、パスポートやノルウェーでの身分証明書を提示するよう求められたという。
WSJが確認した記録によれば、ナジミディンさんは「これは個人的なものなので、渡すことはできない」と昨年5月18日にチャットで返信。相手からは「慎重に考えた方がいい」との答えがあった。
その後、綿農家として働くナジミディンさんの父親(59)が拘束されて収容センターへ送られたのは、11月のことだった。父親は前科もなく、政治活動への参加歴もない。
中国政府がここまで多くの市民を拘束することは、数十年ぶりのことだ。政府は新疆ウイグル自治区の独立を求めるイスラム過激派のときに暴力的な衝突に発展する活動を懸念しており、海外に住むウイグル族がその急進化の動きを支えている可能性があると見ている。
中国国外のウイグル族を対象とした政策について、中国の外務省は他の省庁に問い合わせるよう回答を寄せた。公安部や国務院新聞弁公室(SCIO)から回答は得られなかった。トップの情報機関である国家安全部にはコメントを求めることができなかった。中国政府はウイグル族を収容する施設の存在を否定し、軽犯罪者向けの職業訓練施設だと説明している。
「どこに連れて行かれたかは、見当もつかない」
WSJが取材したところ、米国、英国、ドイツ、オーストラリア、ノルウェーなどの国々で中国当局から圧力を受けたと答えたウイグル族は17人に達した。
ウイグル族は新疆ウイグル自治区を祖国と考えている。だがここ数十年の間に仕事を求めて多くの人が海外へ渡った。政府による信仰の弾圧や中国人が大挙して地域に流入したことなどを受け、外国へ移った人もいる。
母国を後にしたウイグル族の中には、アフガニスタンやシリアで活動するジハーディスト(イスラム聖戦主義者)グループに参加した人もいる。2014年には中国でウイグル族過激派が自家製爆弾やナイフを使ったとする事件も増加した。昨年2月にはイラクを拠点とする過激派組織「イスラム国(IS)」の一派が動画を公開。その中でウイグル族のメンバーはいずれ中国入りし、「血の川が流れる」ような事態を起こすと宣告していた。
専門家らは過激派による脅迫の中で信ぴょう性が高いものはごくわずかだとしており、中国政府の対応は海外から非難されている。政府を支持している人も多いウイグル族を遠ざけるリスクがあるとの指摘もある。
英国籍を取得したレイラ・アブライティさんは、65歳になる母親が昨年夏に収容所に連行されたと話す。自身が英国で幼児発達学を研究している証拠書類は、求められた通りに送付していた。母のシャムシヌエル・ピダさんは定年まで国営の石油化学企業に勤め、前科もなかった。
アブライティさんは母親が「どこに連れて行かれたかは見当もつかない」とし、「誰もが怖がって私と連絡を取ろうとしない」と述べた。
オーストラリア国籍を取得した活動家のアイヌール・アシマジイさんは、同じくオーストラリアに住む母サイディ・アイシグリさん(71)の身分証明書が期限切れのままだと話す。今年1月、シドニーにある中国領事館がパスポートの更新を認めなかったためだ。アイシグリさんはパスポートを中国で更新するよう、母国への片道の渡航許可証を渡された。だが戻れば再出国が認められなくなることを恐れ、新疆ウイグル地区には帰らない判断をしたと話す。