Gene A. Bunin July 27, 2018 前書き:この記事の主旨は、1年半以上に渡り著者が考察した、中国本土(中国内地)と中国の新疆ウイグル自治区に住むウイグル人の声、考え、素行を国際社会に伝えることです。登場人物を守るため、彼等が特定されてしまう恐れのある名前、場所、時間、又はそのような情報を意図的に隠し、変更しています。引用した個人の言葉は、記憶に残ったウイグル語の会話から抜き出したものであり、翻訳も加えたため、正確な引用とはなりません。しかし、本質的な内容を維持しており、読者に理解していただけることを願っています。 約1年前、中国内地にあるウイグルレストランをフードガイドにまとめる旅に出ていた。最初にカリム氏のレストランに入ったのもその為であった。この旅で、中国内地の50都市、200軒近くのレストランを取材しましたが、カリム氏が経営するレストランは特に印象的だった。最高に美味しいスパイシーなピラフだけでなく、1~2時間座っていても楽しいほど暖かい人間味があるコミュニティでもあった。カリム氏は素晴らしいホストであった。顧客としばしば交わす会話は時の重い話題に触れながらもユーモアなものであった。 カリム氏のレストランに何度か行ったが、一度、ウイグル人が漢民族の大都市で直面している差別が話題になったことがあった。そこにいた何人かの顧客があげた例は宿泊探しだった。内地のホテル側が空き部屋がないと主張し、ウイグル人訪問者の宿泊を頻繁に拒否していた。ウイグル警察官でさえ宿泊が拒否されたと誰かが笑い話にしていた。複数の言語が話せるカリム氏は、そのほりの深い顔立ちで中東から来た外国人のようだった。そんなカリム氏は、時々ホテルの受付スタッフに英語で話しかけていたそうだ。ホテルのスタッフは空き部屋があるといったものの、宿泊手続きを始めるなかで、彼の“ウイグル族”と印字された身分証明書を見たとたん、空き部屋がなくなり、満室だと言うのが常であった レストランで私の正面に座ったカリム氏は、中国内で差し迫った軽蔑と人種差別を受けている別のグループ、アフリカンコミュニティの存在も話してくれた。彼によると、中国の地下鉄で起きたある事件で黒鬼と呼ばわれた黒人は、漢民族の相手を殴り返したそうだ。これが国際メディアに報道され、その後の法律への改善につながり差別問題も改善されたと、カリム氏は言った。彼はその後、BBCのような海外メディアと連絡をとる良い方法はないかと私に尋ねた。そうすれば、中国内地にいるウイグル人にとっても同じ改善が得られるかもしれないと。しかし、中国政府に報復される可能性があり、外国のメディアと連絡を取ることが非常に危険と判断しあきらめた。 だが、すぐに明らかになったように、このような「マイルドな」差別は、ウイグル人が抱える問題の中で、取るにも足らずものとなった。カリム氏と私はこの会話をしていた2017年春に、彼の故郷である新疆(1000万人以上のウイグル人が住む)は、すでに中国政府が主張するテロリズムと宗教的過激主義への突然の「全面的な攻撃」の矢先に立たされていた。翌年には、全般的な弾圧が始まり、新疆ウイグル自治区全体が警察国家に変わった。ウイグル人の生活のあらゆる側面が監視され、潜在的に100万人のウイグル人が徐々に強制収容所に収監され、刑務所に投獄され,又は「消えていった」。収容所の存在や収容所内の生活についての証言として、不健康な生活環境だけでなく、規則的な暴力、拷問、洗脳についてもレポートされている。建設工事の入札やそれらに係わる求人情報は、新しい収容所が続々と建設されていることも示していた。中国政府もまた、新疆以外の中国内地や海外に住むウイグル人を故郷に戻るように命令し、彼等を新疆に戻すため惜しまない努力と、その徹底振りを見せた。海外のウイグル人が命令に背かないように、彼等の親や親戚を拘禁したり、人質に捕っていた。 多くのウイグル人にとって2017年の春は、人権、暮らし, アイデンティティ,そして基本的な自由を失う、ウイグル民族が大きく損なわれる期間の始まりであった。カリム氏が後に命を失ったのと同じく、多くの命が失われることになった。 過去にイスラム教徒が多数を占める国々に合法的に訪問していた、或いは住んでいたウイグル人たちが特に危ないグループとされ、このグループに属していたカリム氏は(彼は3カ国に住んでいた)、ある日手錠をかけられ、連行され投獄された。カリム氏のレストランがある近所を最近再び訪れた時にそう聞かされ、その後のことばは、「彼が“長引いた重労働の後に死んだ”」というものだった。 少なくとも、それは出来事を政治的に適切な表現で伝えたのだった。読者の立場によって、彼が国家によって体系的に殺害されたと言った方が適切かもしれない。 あるいは、全てを完全に否定する方が適切かもしれない。 結局のところ、これらの問題について中国に対抗した試みが遭遇したことは、中国政府の断固とした否定であった。2017年の夏、中国政府は(ウイグル人である新疆党委の対外宣伝室(外宣办)副主任のアイリティ・サリイェフ氏(漢字:艾力提·沙力也夫)に,「世界で最も幸せなイスラム教徒は新疆に住んでいる」と特別に述べさせた。そして2018年の初めごろに、中国外務省報道官の華春瑩(ホァチュンイン)が声明を発表し、「“新疆のすべての民族が平和で満足に生きて働いていることと、平穏で進歩的な生活を楽しんでいることは、誰もが見ることができる”」と述べ、ウイグル人への弾圧に対する懸念は、“不当な批判”であり、“中国内政への干渉”であると示唆した。中国は、問題の議論を試みる欧州諸外国の外交的な招待を拒否した。 また、この読者皆さんの目から見て、中国の声明が「正しい」、或いは「情報が知らされてない」、又は「完全な嘘」だと、世界的にひとつの見方になることは直ぐにはないであろう。しかし、誰にも同意してもらえることと言えば、:幸せであるかといった主観的な感覚は、当事者のウイグル人本人たちに話しをさせることが最善の方法であるということである 残念ながら、新疆に関する情報を全く「無」にする為に中国政府が行っている、静かに確実に推し進めている努力を考えれば、ウイグル人の生の声を聞くことは非常に難しい。加えて、多くのウイグル人が強制的に帰郷させられ、或いは親族が人質にされていると、彼らは声をあげることができない。声を上げたものはその親戚が投獄された。他にも、外国人が普通のウイグル人と如何なる会話もできないように、直接又は間接的な措置が中国政府に取られている。特にジャーナリストは非常に厳しい監視下におかれていて、彼らがインタビューしようとするウイグル人の誰もが恐怖のあまり正常に、正直に話せないのが現状である。新疆を訪れた外国人観光客のうち、私が話したことのある大勢は、電車内や、都市間に設置された数多くの検問所で尋問されたことを話していた。2017年の秋にウイグル人の家に足を踏み入れた直後、警察に連れて行かれたことを話してくれた外国人の友人は、「お茶を飲んで4分間、警察で4時間」と揶揄していた。また別の2人の学者は、昔から往来していた町への出入りが拒否され、その理由も説明されてないと話してくれた。新疆の長期滞在者の一人は、2週間尋問されたあげく、中国から完全に追放された。 2018年には、ウイグル人の知り合いと一分以上話をすると、ウイグル人側が警察に尋ねられる危険性があることから、個人的なチャットでさえ、モラルのジレンマに変わってしまった。多くのウイグル人は、自身の安全を懸念し、外国人の友人のほとんどを中国の(高度に監視された)”WeChat”アプリから削除した。より安全な海外SNSアプリは、それを使うために必要なVPNソフトへの繰り返しの取り締まりと新疆住民の携帯電話に政府のスパイウェアが強制的な装着されているため、選択肢から外されていた。海外への電話や海外からの電話も危険な行為となった。...